事業は人なり、しかも人の和なり

武田薬品工業は、日本の医薬品企業(製薬メーカー)での売上高は1位で、世界の医薬品企業での売上高(2019年)は9位です。創業は天明元年(1781年)6月12日、武田長兵衛(初代)氏が32歳のとき薬種仲買商として独立したのが始まりです。五代目長兵衞(明治3年~昭和34年、享年88歳)氏には、「事業は人なり、しかも人の和なり」との言葉もあり、武田家の家訓として「運・根・鈍」の言葉を大事にしたとのことです。
同社の海外売上比率は約90.9%に達し、イギリスの製薬大手シャイアーを傘下に持っていますが、株価は下図のとおり動きを示していますが、今後どのような動きが想定されるのか財務面から見てみたいと思います。

青色はダウンし、緑色がアップ、茶色もダウン
武田薬品が毎決算期末に保有する現金・預金(キャッシュ)を、その獲得した4つの手段である①「事業の儲けで獲得したお金」、②「運転資金で獲得したお金」、③「設備・投資等の長期資金で獲得したお金」、④「お付き合いで獲得したお金」で区分したグラフは下図のとおりです。( なお、株価は「終値」でなく、有価証券報告書に記載されている各決算前の1年間の「最高株価と最低株価の単純な平均値」です。)

グラフの特徴としては、青色のグラフ「事業の儲けで獲得したお金」が下降し、緑色のグラフ「運転資金でのお金」が急上昇、茶色のグラフ「設備・投資等で獲得したお金」が急下降しています。その意味について説明します。
当期純利益が減少 ➡ 青色のグラフ「事業の儲けでのお金」下降
「事業の儲けで獲得したお金」は、何といっても2025年3月の決算期までの1年間の業績を示す「当期純利益」が多いか少ないかによります。武田薬品は「営業利益」「経常利益」「当期純利益」とも減少しています。したがって、来年(2026年)3月の予測も今期(2025)と同様の減少と仮定することから、青色のグラフの減少傾向が続きます。


緑色と茶色グラフの動きの主な原因について

「運転資金で獲得したお金」は、下記のDからEを差し引いた金額を、その期の発行株式数で割って、一株当たりの金額として表示したものです。
D・・貸借対照表の支払手形、買掛金、電子記録債務、契約負債、未払金、未払費用、前受金、短期借入金、コマーシャルペーパー
E・・貸借対照表の受取手形、売掛金、電子記録債権、契約資産、未収入金、前渡金、棚卸資産
したがって、D - Eの計算式から、この「運転資金で獲得したお金」が増加するのは、Dの負債が増加する場合か、Eの資産が減少する場合かです。武田薬品は「短期借入金」を約6,261億円増加させていることから、緑色のグラフが急上昇しました。

「設備・投資等で獲得したお金」は、下記のFとGの合計額からHを差し引いた金額を、その期の発行株式数で割って、一株当たりの金額として表示したものです。
F・・貸借対照表の社債(1年以内償還予定社債を含みます)、長期借入金(1年以内返済長期借入金を含みます)、関係会社長期借入金、預り保証金・敷金リース債務、資産除去債務、その他の固定負債
G・・貸借対照表の純資産の部の資本金、資本剰余金、利益剰余金 ( 繰越利益剰余金を除きます )、自己株式、評価・換算差額等、新株予約権
H・・貸借対照表の有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産のうちの出資金、関係会社出資金、長期貸付金、関係会社長期貸付金、投資有価証券(有価証券を含みます)、関係会社株式、差入保証金、その他の投資資産
したがって、F + G - Eの計算式から、この「設備・投資等で獲得したお金」が減少するということは、Fの負債が減少する場合や、Gの資本金、資本剰余金、繰越利益剰余金を除いた利益剰余金が減少した場合です。また、Hの資産が増加した場合も、この「設備・投資等で獲得したお金」が減少します。
武田薬品は、Fの負債である「長期借入金」の返済(1年以内に返済すべきものも考慮しています)を約1兆1,414億円ものお金を返済をしてお金が社外に出ています。また、片方では「社債」の発行(1年以内に償還すべきものも考慮しています)を増やし、約3,285億円のお金が社内に入りました。なお、投資活動とみる「関係会社長期貸付金」が約7,004億円発生し、そのお金が社外に出ています。その結果「設備・投資等で獲得したお金」は大きなマイナスとなり、茶色のグラフガ急下降しました。

長期負債の返済や大規模な投資(または資産の継続的な取得)を継続
以上の動きから武田薬品は、短期借入金を中心とした資金調達により、長期負債の返済や大規模な投資(または資産の継続的な取得)を継続するという、積極的な財務戦略を採ることを示しています。しかし、関係会社への長期貸付金を始めとする大規模な投資を、短期借入金という短期間での返済の必要がある資金で調達する財務戦略は、決して妥当なものといえないことから、来年(2026年)3月の決算において、短期借入金の減少、つまり、長期の借入金への振替、さらには「関係会社長期貸付金」がさらに増加するのか、それとも貸付金が回収され減少するのか ( 子会社などの関係会社の業績の動向による )を注目する必要があります。

武田薬品工業株式会社の今後の株価の動きについて
以上、武田薬品の財務戦略には今後の動きに留意すべき課題と問題点があること、また「株価」が「事業の儲けでのお金」の何倍で推移しているかをみたとき、すでに10倍を声いてることから、今後の武田薬品の株価については来年(2026年)3月の決算まで待って判断すべきと考えます。

人工知能(AI)の分析については、様々な上場企業を対象にしてきましたが、まだまだだなぁ、つまり「財務の専門知識をもった優秀な新入社員の『ありきたり』の回答に過ぎず、深堀できてないなあ」との思いが否めません。したがって、人工知能(AI)に分析させる質問の仕方や資料提供について検討していますので、しばらくの間は割愛しております。
「事業の儲けでのお金」「運転資金でのお金」「設備・投資等でのお金」「お付き合いでのお金」については、下記のユーチューブで簡単な説明動画が見れます。ご参考にしていただければ幸甚です。
上場会社の財務分析手法 キャッシュフローの4つの原因分析とは? (youtube.com)
このブログでは別に「😊 今週の「株価当てクイズ」😢」を作っています。
今週に追加した企業は、 さくらインターネット株式会社です。正解しても景品も賞金もありません。ご容赦ください。
今週の「九州テクテク歩き」:筑前(福岡県)大野城市のさる農家の庭に咲いていた花を、ご承諾を得て撮りました。「山茶花(さざんか)」とのことでした。白に淡いピンクが美しかったです。

最後まで見ていただきありがとうございました。
[ 投稿日 2025年11月17日(月曜日) 投稿者 岡 陽三郎
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